はじめから読む

前の話を読む

2020年夏。
ICUの窓から見える景色は、晴天。ICUには複数のベッドがあリ、私はひとつのベッドに横たわり、晴天の青空を見ている。主治医の言葉を思い出す。 

 「くも膜下出血の家族歴がある場合、ご家族も、くも膜下出血になる可能性があるんですよ」 

知らなかった。
考えてもみなかった。知らないから、考えようもないのだけど。 確定ではないものの、遺伝は可能性として十分考えられる。私の叔父がくも膜下出血で亡くなったこともそうだし、父方の親族の半分は短命だ。だが、残り半分は長生きしている。退院し、全てが終わったら、調べてみよう。 

そんなことを考えていると、看護師が私に話しかける。彼女の両手には、紙・書類が大量にある。なんだろう?

20231006
「新月さん、こちら確認してください。無理はしなくても大丈夫ですからね。入院の案内です。枚数があるんですが、同意書など確認・記入して頂きたいですものがあります」 

私は、用紙とペンを受け取る。 
そして、看護師は話を続けた。 

 「パジャマ・タオルは、レンタルです。詳細は、こちらの用紙をご確認ください」 
「歯ブラシ・スリッパを購入しますか?」
 「入院生活で必要なものは、こちらのリスト表から購入できます」 
「今、コロナ禍のため、面会をお断りしています。ご家族とお話ししたい場合、オンラインTVを用意しています。使い方・申し込み方法は、こちらの用紙に記載しています」 

 私は、頭が痛い。
この頭痛の中、この大量の資料を読み、手続きをする必要があるようだ。 看護師は、さらに続ける。

 「無理はしなくても、大丈夫ですからね」 

そうは言うけれど、しないわけにもいかず。
私は、休みながら、資料を読み始めた。そして、各方面への連絡も始めた。仕事、家族、友人。 たまたまなんだろうけど、仕事はくも膜下出血を発症した前日に、全て終えていた。さらに、たまたまなんだろうけど、家事も全て終えていた。都合が良い。これは、なんのタイミングなんだろう? 

家族には心配をかけた。
動揺していると思ったけれど、家族からの連絡は、後ろ向きな発言がなかった。心強い。

友人には「大丈夫?」と尋ねられた。
どうなんだろう?そう問われても、わからない。たぶん、大丈夫だと思う。生きているし、メールもしている。大丈夫な患者だと思う。「大丈夫」と答えておこう。 そんなやりとりをしつつ、すごい時代だと思った。 

私は、面会謝絶のICUに入院している。
だけど、スマホのおかげで、社会とコミュニケーションが取れている。幼少期の頃ドラマで観た、ICUの入院患者とは違う。

スマホが、ひとつの時代を作ったんだと、ぼんやり思った。 

 私の入院生活初日。 
正確にいうと、意識を取り戻してからの初日は、多忙に終わった。疲れた。ここで、気づく。 

 生きるは、忙しいんだ。

■後日談

入院生活に慣れてくると、自宅のベッドとそんなに変わらないよね…な気持ちになりました。
頭痛もするし、歩くのもままなりません。自由もありません。 

だけど、社会とコミュニケーションが取れています。だけど、病院内で入手できないものは、別の方法で入手していました。
つづく


▼▼▼ こちらの漫画をもとに、著者本人がコラムを書いています ▼▼▼


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