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くも膜下出血発症から数日経過。
2020年夏。
ICUのベッドに寝ている私に、看護師は尋ねる。
「新月さん、体調はいかがですか?」
私は、看護師の微笑みを見返す。
「…寝過ぎた時、頭が痛くなると思うんですが、その時の痛みです」
私から体温計を受け取った看護師は、言う。
「熱は38度ありますね」
「熱もそうなんですけど…」
私のくも膜下出血の現状は、常に頭痛。だいたい発熱。37度〜39度を行ったり、来たり。37度と39度の違いは体感的にはなかった。それより、私が気になったのは
「頭をあげると、頭痛が酷くなるんですよね」
ベッドに横になっていれば、激しい頭痛はない。手足は動く。だけど、5分以上起き上がると、嘔吐感を伴う激しい頭痛となる。ほぼ寝たりきり状態。
この頭痛は、いつ終わるんだろう?
本当に終わるんだろうか?
このまま私は寝たきりになるのかな?
そう思った時期もあったけれど、不安は続かない。私は、漠然と、完治する未来を信じていた。意外に思われるかもしれないけれど、この頃の私は平和だった。
私は、たぶん大丈夫。
私は思考量が多い。そのため、様々なパターンを考えるため、後ろ向きなことも考える。だけど、私の最終思考は、前向きだ。だから、私の心は静かで平和。
この平和を作っているひとつは、看護師の存在も大きい。よく笑う看護師がいた。
「わー楽しいですね。わはははははははははは」
楽しいこと?
なにがあったんだろう?
この笑い声の前後にあったことを、私は思い出す。特に、楽しいことはない。私は考える。やはり、楽しいことはない。
だけど、看護師は笑い続ける。
病室は、彼女の笑い声でいっぱいなった。
すると、病室の空気が、軽くなっていくのを感じる。他の患者の、小さな笑い声も聞こえ始めた。そして、私も吹き出すように、笑い始めた。
「…ふはッ!ははははは」
笑う。
楽しい、おかしいことはないのだけど、笑う。笑う。笑う。楽しくて、おかしくて仕方がない。
笑い終えた後、私は気づく。
看護師は、笑いが患者に与える効果を知っていて、わざと笑っているんだ。フランスの哲学者アランの言葉を思い出す。
幸福だから笑うのではない。笑うから幸福なのだ
確かに、そうかも。
素敵な言葉だし、なにより、現実もこの言葉の通りだ。これが、正しい順番なんだ。
まずは、笑う。
それから、幸福になる。
今日も一日、わはははははー!笑
つづく
▼▼▼ こちらの漫画をもとに、著者本人がコラムを書いています ▼▼▼
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