はじめから読む
前の話を読む
「くも膜下出血のラブレターを、誰に届けたいですか?」
退院後、不安になったり、怯えたり、喜んだり、笑ったり。
前の話を読む
「くも膜下出血のラブレターを、誰に届けたいですか?」
そう問われると、いつも思い出すのは自分の後ろ姿。
私は、ICUのベッドでスマホを両手で持ち「くも膜下出血」を検索していた。その自分の後ろ姿を、思い出す。
2020年夏。
コロナ禍の中、私はくも膜下出血を発症した。激しい頭痛。その後、私はすぐに救急車に連絡をし、病院の治療を受けることができた。ICU入院生活は、2週間と少し。
その入院生活の中、私は毎日のようにスマホ検索をしていた。
ほぼ常時頭痛があったので、1回の検索時間は約10分。疲れたら休憩し、また検索。
検索するキーワードは、その時々によってさまざま。だけど、ほぼ毎回あるキーワードは、決まっていた。
"くも膜下出血"
"くも膜下出血 死亡率"
"くも膜下出血 その後”
検索結果の上位には、病院、専門医の記事があがる。
A病院、B病院のくも膜下出血にまつわる記事を、読んだ。病院名の違いはあれど、ほぼ似たような記事だ。昨日も読んだ記事を、今日も読み返す。同じ記事だ。 似たような記事、同じ記事を、私は繰り返し読んでいた。
私は知りたかった。
今後の自分が、どうなるのか知りたかった。過去、私と似たような境遇になった人がいないか、探していた。その人が、くも膜下出血をどう克服したのか、知りたかった。しかし、あるキーワードになると、スマホはぴたりと口を閉ざす。
”くも膜下出血 退院後”
当時者の記事がなかった。
正確に言うと、病院発信の記事はある。当時者の入院や治療の様子の記事はある。だけど、退院後の彼らの日常はほとんどなかった。
退院後、以前と同じ生活に戻ることはできたんだろうか?
退院後、困ったことはなかったんだろうか?
退院後、仕事に復帰できたんだろうか?
「くも膜下出血のラブレター」では、当時の私が知りたかった話を描いている。くも膜下出血になったが、病院の治療により回復。しかし、再手術をすることになり、一時的に退院した人間の喜びや苦しみ。今までの日常が、非日常になった話。
美容院のシャンプーで、怯え、混乱したこと。そんな自分に驚いたこと。
低山とはいえ、山に登ったこと。パニックになったこと。
周囲の人たちに、想像以上に支えられていること。
家族のこと。
私の失敗も愚かさも描いた。
描くことは怖かったけれど、描いた。当時の私が知りたかったのは、当時者のリアルな日常だったから。2020年夏、当時の私には届けることができなかった。だけど、それ以降に似たような症状で入院している人たちには、届けることが出来ると思っている。
退院後、不安になったり、怯えたり、喜んだり、笑ったり。
つづく
▼▼▼ こちらの漫画をもとに、著者本人がコラムを書いています ▼▼▼
コメント
コメント一覧 (2)
ご感想をありがとうございます。
そして、気付くのが遅くなりすみませんでした。
今回のようなご感想は、執筆の励みになります。
今後も頑張ろう!と思えました。
病気、入院、命の% 誰にでも起こり得る事ですし 自分でも、自分の大切な人にでも極力起こってほしくはないです。
しかし、もしそうなってしまった時やその後 考えなきゃいけない事や恐怖など とても鮮明に描かれていて心打たれました。
大丈夫ですか?の言葉は難しいです。病気でいっぱいいっぱいの人に大丈夫ですか?と聞くのも難儀なものです。確かに安心した顔を向けたいし向けられたいですから。